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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(ク)5号 決定

主文

本件抗告を却下する。

理由

職権をもつて本件抗告の適否を審査するに抗告人は昭和二十二年二月二十一日青森地方裁判所に売買代金請求の訴訟を提起したところ同裁判所は被告の申立により同年六月十八日訴訟を山形地方裁判所酒田支部に移送する旨の決定をなしその決定は翌十九日原告訴訟代理人に送達された。原告はこの決定に対し即時抗告をしたが抗告状は青森地方裁判所の受付印によれば同月二十七日同裁判所に提出されたことになつている。よつて抗告裁判所たる仙台高等裁判所は右抗告を期間経過後になされたものと認め不適法として却下する旨の決定をした。

本件はこれに対する再抗告である。ところで裁判所法第七条第二号によれば最高裁判所は訴訟法において特に定める抗告につき裁判権を有する旨を規定しておる。而してこの規定を下級裁判所の裁判権を定めておる裁判所法第十六条第二号及び第二十四条第三号の規定と対照してみると最高裁判所については特に定める抗告と規定しておるに拘わらず下級裁判所においては地方裁判所の決定及び命令に対する抗告又は簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告と規定しておるのであつて下級裁判所の裁判権に属する抗告即ち一般民事訴訟法又は刑事訴訟法による抗告については特に定めるという文辞を使用していないのである。この点からみて下級裁判所の決定及び命令に対し最高裁判所に抗告することが許されるのは訴訟法において特に最高裁判所に抗告し得ることを定めた場合に限るのであつて即ち現在においては日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律第七条及び日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十八条の場合に限る趣旨であつて一般民事訴訟法又は刑事訴訟法により抗告のできる場合を含まないと解すべきである。但し右の解釈の結果として最高裁判所に抗告することを許さない一般の決定又は命令に対してもその決定又は命令において為した憲法上の判断の不当なることを理由とする限り前記応急措置法の規定により最高裁判所に特に抗告することができることは云うまでもないところである。本件は前記の如く通常の再抗告であつて別に憲法上の判断の不当を理由とするものでないから当裁判所に抗告することのできないものである。従つて本件抗告は不適法として却下すべきものであるから主文の如く決定する。右は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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